ご挨拶

 

 私のウェブサイト俳句集に、ちょっと寄って行かれませんか。 

 日常生活の中での気づきや感想を、五・七・五の俳句の手法で表現しました。俳句作りには、季語の約束がありますが、私はストレートな表現が好きなので季語の入らない短句も含まれます。

 毎月初め、私の句をウェブサイトに投稿する予定です。自己流で作った句集ですが、どうぞご覧ください。

 

                            中嶋 徳三  

令 和 七 年  


 和歌が若い人たちに人気です。俳句17音(五七五)に比べて和歌は31音(五七五七七)、この差が表現の領域を拡げて詩情を豊かにします。そこで私は考えました。一つのテーマに、関連した二つの句を合わせると合計34音、和歌の詩情に迫れるかもしれないと考えました。

 令和七年の一年間は、この考えの下、過去に掲載した句を中心に改めて2句の組み合わせを再検討し、詩情を豊かにしたいと思います。従前通り、句には写真と短文を記載します。お付き合いの程、お願い申し上げます。

八 月


1.  炎 暑

  

百日紅の

行き倒れ頭をよぎる炎暑かな

 

 

 

炎天に松明かかぐ百日紅

 

 

 今年の夏の暑さは尋常ではありません。日差しの強い日中に外出したら行き倒れになりそうです。プレゼントされた男性用の日傘を使い片影を辿りながら歩きます。


2.  遠 雷

  

雷神

遠雷の音数え待つ夕涼み

 

 

 

神鳴りといえど今宵は優しけり

 

 

 小学校で稲妻が光ったら雷の遠近の判断のため音が聞こえるまでを数えなさいと教わりました。私はよほど怖かったのでしょう稲妻が光る度に真剣に数を数えました。


3.  幽霊坂

  

山門と坂

幽霊に会いたし怖し闇夜坂

 

 

 

古井戸に西瓜吊した昼寝かな

 

 

 お茶の水は坂が多く幽霊坂があります。昔、周辺は大名屋敷で木が生茂り昼間でも薄暗かったそうです。今はビルが立ち並び幽霊さんも出ずらいでしょう。出たら学生に囲まれ、「キャ~足がない、写真撮らせて~」。幽霊さん「恨めしや~」。


4.  佐藤奈良

  

夏空の白雲

  さよなら

佐藤奈良と文を残して飛び立ちぬ

 

            くも 

礎の石碑無言や白雲流る

 

 

 筑波山、霞ヶ浦周辺は戦争中に特攻隊の訓練基地があり現在は記念館があります。出撃の時、別れを暗号化して書き残し飛び去った隊員の手紙が展示されていました。


5.  盆踊り

  

盆踊り

新しい下駄に墨つけ盆踊り

 

 

 

スニーカーまあまあよろし浴衣着に

 

 

 子供の頃、盆踊りと夜店は楽しい行事でした。新しい下駄を下ろし、でも慣れずにつまずかないよう下駄の裏側にお呪いの墨をちょっと付けます。素敵な慣習でした。


6.  施餓鬼会

  

施餓鬼会

施餓鬼会の香揺るがすや蝉の声

 

 

 

茄子胡瓜つまらなそうに面並べ

 

 

 施餓鬼会は、毎年夏の盛りに蝉の鳴き声の中で行われます。その蝉の声は、祭壇に供えられた線香から立ち登る煙を揺るがすのではと思うほど盛大な鳴き声です。


七 月


1.  初の盆

  

水連の花

戒名の墨跡涼し初の盆

 

 

 

初蝉や鳴く声聴く耳整わず

 

 

 菩提寺のご住職が、亡くなった妻に高い位の戒名をつけてくれました。彼の世でも “私の方が位が上よ”、と差配されそうですと言ったら、住職は笑っていました。


2.  白 桃

  

桃

桃の果やうっふうっふの顔並べ

 

 

 

柔肌に触るる如くに白桃を剥く

 

 

 お中元に桃を沢山いただきました。箱のなかの桃たちは、何かおかしいのでしょうか、顔をならべて “うふふ、うふふ”、と笑っているようにも見えます。


.  転 寝

  

竹 帚

柱背に竹ぼうき抱きうたた寝す

 

 

 

転寝やおのれの鼾が邪魔をする

 

 

 朝の庭掃除を終え、柱を背にして竹ぼうきを抱き、少しの時間うたた寝をしました。朝の気持ちのよい爽やかな空気のなかで、この転寝は何とも至福の時間でした。


.  田 植

  

水 田

畦道に茶碗並べた田植かな

 

 

 

神々し水田のつづく信濃路や

 

 

 田植を終えた水田が遠くまで続き、その水面は青い空と白い雲を映しています。この水田の風景を“神々しい”と感じるのは、日本人の感性といえるでしょう。


5.  立 葵

  

立あおいの花

立あおい浴衣姿で粋に立つ

 

 

 

短夜や勝手にスリープ我パソコン 

 

 立葵の花が道端に咲いています。遠くから見ると、浴衣姿の娘さんが友だちと縁日に行くため、待ち合わせをしている姿に見えます。下町によく似合う花です。


6.  冷 酒

  

夏の酒器

冷酒や五臓六腑に流れゆく

 

 

               あるじ 

コップ酒かつて男は主人だった 

 

 一日の仕事を終えて帰宅の途中、地元の酒屋の店先で冷酒をキュッと立ち飲みし、家に帰って何事もなかったように新聞を読む。かつて男が主人であった頃の話です。


六 月


1.  梅雨入

  

葉ざくらの路

                 ついり

傘選び母とむすめの梅雨入かな

 

 

雨垂れや二つ傘ゆく垣根越し

 

 

 梅雨の時期になると傘売り場が賑わいます。男性用の大ぶりの傘、女性用の小ぶりで色彩豊かな傘、母とむすめが傘を広げながら楽しそうに傘選びをしています。


2.  花菖蒲

  

雨垂れ

菖蒲田の江戸紫の粋なこと

 

 

 

釈迦牟尼の立ち姿なりあやめぐさ

 

 

 梅雨入りして小雨に打たれる花菖蒲(アヤメ)は、濡れてしっとりとした立ち姿です。江戸紫と名の付いたあやめは、粋な芸者さんの立ち姿のように見えます。


3.  紫陽花

  

雨垂れ

紫陽花の彩振りまくや路地の裏

 

 

 

艶やかな紫陽花隠し立ち話

 

 

 紫陽花の色鮮やかな大輪が裏通りの片隅で咲いています。表通りなら皆から艶やかと褒められるのにと思いますが、紫陽花はこれでいいですと言っているみたいです。


4.  雨上り

  

雨垂れ

石畳濡れてしづかな雨上り

 

 

とが

栂の木にまだまだ若造と励まされ

 

 

 本堂横に樹齢四百年の栂の木がある禅寺をお参りしました。私も老齢になりましたと報告したら、栂の木にまだまだ若造じゃないかと笑われたような気がしました。


5.  袋田の滝

  

葉ざくらの路

    いわお

白龍は巌を伝いて泳ぎをり

 

 

滝姿われの煩悩小さい小さい

 

 

 日本三大名滝の茨城袋田の滝は豪快な滝姿です。白龍が谷川の巌を泳ぎ下り、轟音と共に滝壺に落ち込みます。この滝姿に比べたら、私の煩悩の何と小さいことか。


.  娘の涙

  

雨垂れ

平潟のむすめの涙川流る

 

 

 

江戸川の風に吹かれる女郎花

 

 

 水戸街道沿いの松戸は、江戸時代に江戸川を利用した鮮魚の集積地として賑わい、平潟遊郭がありました。東北から家の借金で多くの娘が連れてこられたそうです。


五 月


1.  葉 桜

  

葉ざくらの路

              よわい

葉桜を好ましと思う齢かな

 

 

北国の花散ると聞き眼を閉じる

 

 

 満開の桜は豪華絢爛です。でも、その桜を一日中見てると満腹感を覚えてきます。葉桜は満開の桜の絢爛さはないですが、落ち着いた風情を楽しめます。歳ですね。


2.  春の雨

  

雨垂れ

雨垂れに初めて気づく春の雨

 

 

 

春雨のしづかなること曼荼羅似

 

 

 春の雨は、雨垂れがなければ気付かないほど静かに降ります。この雨は、植物や昆虫等の生き物には慈雨となります。私の場合、燗付した日本酒が慈雨といえます。


3.  牡 丹

  

牡丹の花

大牡丹よいしよ支える細き幹

 

 

 

ぼたん花なぜそんなにも散り急ぐ

 

 

 庭の鉢植えの牡丹が、手入れもしないのに今年も咲きました。昨日まで蕾だったのが一夜で大輪の花を咲かせました。細い幹が一生懸命にこの大輪を支えています。


4.  藤の棚

  

藤棚の花

ひと見上げ花見下ろすや藤の棚

 

 

 

糸柳透けて見えるは娑婆世界

 

 

 近くの寺院境内の藤の花が満開です。見物客はみな花を見上げ(何人かは口を開け)、花は人を見下ろしています。このシーン何となく可笑しいと思いませんか。


5.  春ひかる

  

幼 児

嬰児にウインクされし喜寿の春

 

 

 

幼児の名札の白さ春ひかる

 

 

 母親に抱っこされていたと思った子が、小学校一年生になりました。背中からはみ出るランドセルを背負い登校します。その姿は、輝いていて眩しく見えます。


6.  夕あかね

  

花壇の花

母の日に駿馬に蹴られる夢を見た

 

 

 

夕あかね母のごとくの慈愛あり

 

 

 わたしは、夢のなかで老いた母から説教されていました。反論しようと思いましたが、言葉がうまくでてきません。いつまでも、どこにいても、母親は、母親です。


四 月


1.  初の蝶

  

花壇の花

春来たを知らせて廻る初の蝶

 

 

 

アネモネの唄うがごとく風に揺れ

 

 

 小さな白蝶が垣根を飛び跳ねるように庭に来て、春が来たことを知らせると隣家の方へ飛んで行きました。春になったのを知らせて廻る伝令の役目のようでした。


2.  芽吹き

  

垣根の芽吹き

花を観て歩き疲れた芽吹きかな

 

 

 

春芽立つ日劇ホールを思い出し

 

 

 「日劇ミュージックホールを観たことがありますか?」「えっ、あのストリップ劇場ですか?」。こうゆう人とは、芸術の何たるかについて議論はできませんね。


3.  郭 公

  

筑波山からの眺望

郭公の初音はテノール筑波峰

 

 

 

つくば嶺やかすみが浦が水たまり

 

 

 筑波山へはドライブがてら車で出かけて行きます。山頂の近くでは、郭公の爽やかな鳴き声を楽しめます。展望台からは、霞ヶ浦が水たまりのように見えます。


4.  春一番

  

なぎ倒された自転車

春一番群がる敵をなぎ倒し

 

 

 

目目かゆし眼ん玉かっぽじって洗ったろか

 

 

 春の強風が吹き荒れ、スーパーに隣接した広場にとめてある自転車を皆なぎ倒しました。まるで戦国時代の戦場で攻め寄せる敵の大群をなぎ倒すかのようでした。


5.  花吹雪

  

桜の花

風吹けば身をまかせ散る桜かな

 

 

 

花吹雪風の間に間の静かさよ

 

 

 桜の花は、風が吹くとその風に身を委ねるように散っていきます。風が止むと花も散るのを止め、桜の木の周辺は静かな気分になります。花のいのちは短いです。


6.  花の乱

  

花見

蝶が舞いわたしも舞ふて花の乱

 

 

 

わが命あと幾度の桜かな

 

 

 桜の開花を心待ちにする時間の長さに比べると、咲いた後の花の命は短いです。私の残りの人生で、あと何回桜の花を見ることができるかを考えてしまいます。